歯が欠けたときの応急処置

転倒や事故、硬いものを噛んだ拍子に歯が欠けてしまうことは、誰にでも起こりうるトラブルです。突然のことで動揺してしまいがちですが、適切な応急処置を行うことで、その後の治療をスムーズに進めることができます。また、不適切な対応をすると状況を悪化させてしまう可能性もあります。ここでは、歯が欠けてしまったときの正しい応急処置、やってはいけないこと、そして歯科医院での治療について詳しく解説します。

歯が欠ける原因と種類

歯が欠ける原因は様々です。最も多いのが、硬いものを噛んだときの衝撃です。氷、硬い飴、ナッツの殻、骨などを噛むと、歯に過度な力がかかり欠けることがあります。また、転倒や事故、スポーツ中の衝突なども歯が欠ける大きな原因となります。

さらに、虫歯によって歯が脆くなっている場合、普通に食事をしているだけでも欠けることがあります。歯ぎしりや食いしばりの習慣がある人も、長期的に歯に負担がかかり、欠けやすくなります。また、過去に治療した歯は健康な歯に比べて強度が低下しているため、欠けるリスクが高まります。

歯の欠け方にもいくつかのパターンがあります。表面のエナメル質だけが少し欠けた軽度のものから、内部の象牙質まで達する中程度のもの、さらには神経まで露出するような重度のものまで様々です。また、歯が根元から折れてしまう歯根破折という深刻なケースもあります。欠け方の程度によって、痛みの有無や緊急性も異なってきます。

直後にすべきこと

歯が欠けたら、まず落ち着いて状況を確認することが大切です。口の中を鏡で見て、どの歯がどの程度欠けているのかを把握しましょう。出血がある場合は、清潔なガーゼやティッシュで優しく押さえて止血します。強く押しすぎると傷を広げる可能性があるので注意が必要です。

欠けた歯の破片が見つかったら、必ず保管してください。破片の状態が良ければ、接着して元に戻せる場合もあります。破片は乾燥させないよう、生理食塩水や牛乳に浸して保管するのが理想的です。水道水は浸透圧の関係で細胞にダメージを与える可能性があるため、できれば避けたほうが良いでしょう。ただし、生理食塩水や牛乳がない場合は、水道水でも構いません。

口の中を清潔に保つことも重要です。ぬるま湯で優しくすすぎ、食べかすや血液を取り除きます。ただし、強くうがいをすると出血が再開する可能性があるので、優しく行ってください。そして、できるだけ早く歯科医院に連絡を取り、受診の予約を入れましょう。

痛みがある場合の対処

歯が大きく欠けて神経が露出している場合、激しい痛みを伴うことがあります。このような場合、まず市販の鎮痛剤を服用することができます。イブプロフェンやアセトアミノフェンなどが効果的です。ただし、用法・用量を守り、過剰摂取には注意してください。

患部を冷やすことも痛みの緩和に有効です。氷嚢や冷たいタオルを頬の外側から当てます。ただし、直接氷を口に含むことは避けてください。知覚過敏を引き起こしたり、凍傷の危険があったりします。冷やす時間は15分程度にとどめ、長時間続けないようにしましょう。

痛みがひどい場合でも、アルコールを含むものでうがいをしたり、患部に直接塗ったりすることは避けてください。刺激が強すぎて、かえって痛みが増すことがあります。また、露出した神経を舌や指で触ることも厳禁です。細菌感染のリスクが高まり、さらなる問題を引き起こします。

やってはいけないこと

歯が欠けたときにやってはいけないことがいくつかあります。まず、市販の接着剤で欠けた部分を自分で接着しようとすることは絶対に避けてください。工作用の接着剤や瞬間接着剤には有害物質が含まれており、口腔内での使用は危険です。また、正しい位置に接着できず、噛み合わせに問題が生じる可能性もあります。

欠けた部分を放置することも避けるべきです。痛みがないからといって歯科受診を先延ばしにすると、細菌感染が進行したり、欠けた部分がさらに広がったりする可能性があります。また、鋭利になった歯の縁が舌や頬の内側を傷つけることもあります。

硬いものや熱いもの、冷たいものを食べることも控えましょう。欠けた歯は非常に敏感になっており、刺激によって痛みが生じやすくなっています。食事をする際は、欠けた歯の反対側で噛むようにし、柔らかい食べ物を選ぶことをおすすめします。

応急処置の具体的な方法

歯科医院をすぐに受診できない場合の応急処置について説明します。欠けた部分が鋭利で舌や頬を傷つける恐れがある場合は、薬局で販売されている歯科用ワックスや仮封材を使用することができます。これらを少量取り、指で温めて柔らかくしてから、欠けた部分に優しく貼り付けます。ただし、これはあくまで一時的な保護であり、本格的な治療の代わりにはなりません。

口腔内を清潔に保つことも重要です。食後は必ずぬるま湯でうがいをし、柔らかい歯ブラシで優しく歯を磨きます。欠けた部分は特に注意して、食べかすが詰まらないようにしてください。ただし、強く磨きすぎると患部を傷つける可能性があるため、慎重に行いましょう。

就寝時は、欠けた歯を下にして寝ないよう注意してください。圧力がかかると痛みが増したり、さらなる破損を引き起こしたりする可能性があります。また、歯ぎしりの癖がある人は、状況を悪化させる可能性が高いため、特に注意が必要です。

歯科医院での治療

歯科医院では、まず欠けた歯の状態を詳しく検査します。視診に加えて、レントゲン検査やCT検査を行い、見えない部分の損傷や歯根の状態を確認します。欠け方の程度、神経への影響、残っている歯質の量などを総合的に判断して、治療方針を決定します。

軽度の欠損で、エナメル質だけが少し欠けている場合は、研磨して角を滑らかにするだけで済むこともあります。中程度の欠損で象牙質まで達している場合は、コンポジットレジンという歯科用プラスチックで修復することが一般的です。この治療は比較的短時間で完了し、見た目も自然に仕上がります。

大きく欠けて神経まで露出している場合は、根管治療が必要になることがあります。感染した神経を除去し、内部を清掃・消毒した後、被せ物で歯を修復します。この場合、治療には複数回の通院が必要となり、期間も数週間から数ヶ月かかることがあります。

歯が根元から折れている場合や、修復が困難なほど大きく損傷している場合は、残念ながら抜歯が必要になることもあります。抜歯後は、ブリッジ、入れ歯、インプラントなどの方法で失った歯の機能を回復させます。

予防策

歯が欠けるのを防ぐためには、日頃からの注意が必要です。硬いものを無理に噛むことは避け、氷や硬い飴、ナッツの殻などは特に注意しましょう。また、歯を道具として使うこと、例えば栓を開けたり、糸を切ったりすることも避けてください。

スポーツをする際は、マウスガードの着用をおすすめします。特にコンタクトスポーツでは、歯へのダメージを大きく軽減できます。歯ぎしりや食いしばりの癖がある場合は、歯科医師に相談してナイトガードを作製してもらいましょう。

定期的な歯科検診も重要です。虫歯や歯周病によって歯が脆くなっていないか、詰め物や被せ物に問題がないかなどを確認してもらいましょう。早期発見・早期治療によって、歯が欠けるリスクを減らすことができます。

歯が欠けることは突然起こる予期せぬトラブルですが、適切な応急処置と速やかな歯科受診によって、良好な結果を得ることができます。慌てず落ち着いて対処し、大切な歯を守りましょう。

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