はじめに

入れ歯を使用している方の多くが、痛みや違和感に悩んでいます。せっかく作った入れ歯が痛くて使えない、食事が楽しめないという声は少なくありません。しかし、入れ歯の痛みには必ず原因があり、適切に対処すれば改善できることがほとんどです。我慢し続けると、歯茎が傷ついたり、噛み合わせが悪化したりする可能性もあります。本記事では、入れ歯が痛む主な原因と、それぞれの対処法について詳しく解説します。

入れ歯が合っていない

入れ歯の痛みで最も多い原因は、入れ歯そのものが口に合っていないことです。入れ歯は精密に作られますが、わずかな不適合でも痛みを引き起こします。

作製時の型取りが不正確だった場合、入れ歯の形状が実際の口腔内の形と合わず、特定の部分に過度な圧力がかかります。特に、入れ歯の縁が歯茎に強く当たる部分があると、そこに集中的に痛みが生じます。

また、入れ歯の高さが合っていない場合も問題です。噛み合わせが高すぎると、噛むたびに強い力が歯茎にかかり、痛みや違和感の原因となります。逆に低すぎると、入れ歯が安定せず、動いて歯茎を傷つけます。

新しい入れ歯を作った直後は、多少の違和感や痛みがあることは珍しくありません。しかし、1週間から2週間経っても痛みが続く場合は、調整が必要です。我慢せずに歯科医院を受診しましょう。

歯茎の変化

入れ歯を長期間使用していると、歯茎や顎の骨が徐々に変化します。これが、以前は合っていた入れ歯が痛くなる原因となります。

歯を失うと、その部分の顎の骨は刺激を失い、徐々に吸収されて痩せていきます。この現象は避けられないもので、特に入れ歯を使い始めて最初の数年間は、骨の吸収が急速に進みます。

骨が痩せると、入れ歯と歯茎の間に隙間ができます。この隙間があると、入れ歯が動きやすくなり、歯茎との摩擦で痛みが生じます。また、入れ歯が沈み込むことで、特定の部分に圧力が集中し、痛みの原因となります。

加齢や栄養状態、全身疾患なども、歯茎や骨の状態に影響を与えます。糖尿病や骨粗しょう症がある方は、骨の吸収が進みやすい傾向があります。

定期的に歯科医院で入れ歯の適合状態をチェックし、必要に応じて調整や裏打ち（リベース）を行うことが大切です。一般的には、半年から1年に一度の点検が推奨されます。

入れ歯の劣化や破損

入れ歯は使用しているうちに劣化します。これが痛みの原因になることもあります。

プラスチック製の入れ歯は、長年使用すると摩耗や変形が生じます。噛む力や熱、唾液の影響で、少しずつ形が変わっていきます。また、入れ歯の歯の部分が摩耗すると、噛み合わせが変わり、特定の部分に負担がかかるようになります。

入れ歯にヒビが入ったり、一部が欠けたりすることもあります。目に見えない小さなヒビでも、歯茎を傷つける原因となります。特に、金属のバネ（クラスプ）の部分が変形したり折れたりすると、歯茎や残っている歯に当たって痛みを引き起こします。

入れ歯を落としたり、硬いものを噛んだりすることで、破損することもあります。破損した入れ歯を無理に使い続けると、口腔内を傷つける危険性があります。

入れ歯に異常を感じたら、自分で修理しようとせず、必ず歯科医院で診てもらいましょう。市販の接着剤などで修理すると、かえって状態を悪化させることがあります。

口腔内の傷や炎症

入れ歯により歯茎に傷ができたり、炎症が起きたりすることがあります。これが痛みの直接的な原因となります。

入れ歯が合っていないと、特定の部分が強く擦れて、歯茎に傷ができます。この傷が治らないうちに入れ歯を使い続けると、傷が深くなったり、潰瘍になったりします。特に、入れ歯の縁が当たる部分に傷ができやすいです。

また、入れ歯性口内炎という炎症が起こることもあります。これは、入れ歯の下に食べかすや細菌が溜まり、歯茎が炎症を起こす状態です。赤く腫れたり、痛みを伴ったりします。

カンジダ症という真菌感染も、入れ歯使用者に多く見られます。入れ歯の清掃が不十分だと、カンジダ菌が繁殖しやすくなります。歯茎が赤くなり、ヒリヒリとした痛みが特徴です。

傷や炎症がある場合は、無理に入れ歯を使わず、歯科医院を受診してください。傷が治るまで入れ歯の使用を控えるか、調整が必要です。

噛み合わせの問題

噛み合わせが適切でないと、入れ歯を使用する際に痛みが生じます。

上下の入れ歯の噛み合わせがずれていると、噛むたびに入れ歯が横にずれる力が働きます。この力が歯茎に負担をかけ、痛みや違和感の原因となります。

また、入れ歯の歯の位置や角度が適切でないと、噛む力が均等に分散されず、一部分に集中します。その部分の歯茎に過度な圧力がかかり、痛みを引き起こします。

部分入れ歯の場合、残っている自分の歯と入れ歯の歯の高さが合っていないと、噛み合わせのバランスが崩れます。これにより、顎関節に負担がかかり、顎の痛みや頭痛を引き起こすこともあります。

噛み合わせの問題は、専門的な調整が必要です。自己判断で入れ歯を削ったりせず、歯科医師に相談してください。

入れ歯の清掃不足

入れ歯の清掃が不十分だと、細菌が繁殖し、痛みの原因となります。

入れ歯の表面や内側に汚れが付着したままだと、その汚れが歯茎を刺激します。また、細菌の塊である歯垢（プラーク）が付着すると、歯茎に炎症を起こし、痛みや腫れが生じます。

食べかすが入れ歯と歯茎の間に挟まると、その部分が圧迫されて痛みを感じます。特に、硬いものや線維質のものが挟まると、鋭い痛みを感じることがあります。

入れ歯は、毎食後に外して清掃することが基本です。専用のブラシで丁寧に磨き、汚れを落とします。通常の歯磨き粉は研磨剤が含まれており、入れ歯を傷つける可能性があるため、入れ歯専用の洗浄剤を使用しましょう。

就寝時は入れ歯を外し、洗浄剤に浸けておくことで、より清潔に保てます。これにより、細菌の繁殖を抑え、炎症や痛みを予防できます。

長時間の連続使用

入れ歯を長時間連続で使用し続けることも、痛みの原因となります。

入れ歯を装着していると、常に歯茎に圧力がかかっています。特に食事中は強い力がかかるため、歯茎には負担となります。休憩なく使い続けると、歯茎が疲労し、痛みや違和感が生じやすくなります。

また、入れ歯の下は唾液の流れが悪く、細菌が繁殖しやすい環境です。長時間装着したままだと、この環境がさらに悪化し、炎症を起こしやすくなります。

就寝時に入れ歯を外すことは、歯茎を休ませるために重要です。夜間は入れ歯を外し、洗浄剤に浸けておきましょう。これにより、歯茎の血行が回復し、組織が修復されます。

ただし、歯科医師から特別な指示がある場合は、それに従ってください。症例によっては、就寝時も装着することを勧められることがあります。

食いしばりや歯ぎしり

無意識の食いしばりや歯ぎしりも、入れ歯の痛みを引き起こす原因です。

ストレスや緊張により、日中や睡眠中に強く噛みしめる癖がある人は、入れ歯に過度な力がかかります。この力が歯茎に伝わり、痛みや炎症の原因となります。

また、食いしばりにより入れ歯が変形したり、破損したりすることもあります。これがさらに痛みを悪化させる悪循環を生みます。

食いしばりや歯ぎしりの癖がある場合は、歯科医師に相談してください。入れ歯の材質を工夫したり、ナイトガードを併用したりすることで、対処できる場合があります。

ストレス管理も重要です。リラックスする時間を持ち、十分な睡眠を取ることで、食いしばりや歯ぎしりが軽減されることがあります。

痛みへの対処法

入れ歯の痛みを感じたら、まず歯科医院を受診することが最も重要です。自己判断で対処すると、かえって状態を悪化させることがあります。

受診までの応急処置としては、痛みが強い場合は無理に入れ歯を使わないことです。特に食事以外の時間は外しておきましょう。

痛む部分を冷やすことで、炎症や痛みを和らげることができます。清潔なガーゼに氷を包み、頬の外側から冷やします。

市販の痛み止めを服用することもできますが、これは一時的な対処に過ぎません。根本的な原因を解決するためには、歯科医師の診察が必要です。

まとめ

入れ歯の痛みの原因は、入れ歯の不適合、歯茎の変化、入れ歯の劣化、口腔内の傷や炎症、噛み合わせの問題、清掃不足、長時間の使用、食いしばりなど多岐にわたります。

痛みを我慢せず、早めに歯科医院を受診することが大切です。適切な調整や治療により、ほとんどの痛みは改善できます。定期的な点検と適切なケアにより、快適に入れ歯を使用し続けることができます。

 

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